野球グローブ用の革の特徴とは?ほとんどが素上げレザーの理由
2017.11.17
野球グローブは、プレーヤーである野球選手にとって生命線と言ってもいいくらい重要なアイテムですよね。
同じ野球用具でも、バットやスパイクはよく買い替えても、グローブは長期間使用しているという人は多いと思います。
それはやはり、野球グローブには使い込むほどに色や形が仕上がっていく『本革』という素材が使われていることが大きな要因と言えそうです。
では、そんな野球グローブに採用されている革には、一体どのような種類や特徴があるのでしょうか?
今回は野球グローブの革について、取り上げてみたいと思います。
野球グローブに求められる機能とは?
野球グローブ用の革の説明に入る前に、そもそもグローブに求められる機能から見ていきましょう。
一般に野球グローブには次の3つの機能が求められます。
・耐久性
・弾力性
・柔軟性
一つずつ見ていきましょう。
耐久性
まず第一に、野球グローブには、何千回、何万回という捕球に耐えられることはもちろん、ダイビングキャッチなどの激しいプレーにも耐えられる強さが求められます。
そこには、もちろんプレーヤーの手を保護する意味もあります。
弾力性
野球グローブの役割は一言で言えば『捕球』です。
プレーヤーは、時速100kmを優に超えるスピンの効いたボールも、ボテボテの当たりのボールも正確に素早く捕球する必要があります。
そのため、野球グローブにはまずボールの回転や勢いを吸収する弾力性が求められます。
柔軟性
野球で守備の動きを表現する時に、「グローブ捌(さば)き」という言葉が使われるように、プレーヤーは野球グローブを自分の体の一部のように、スムーズに操ることが求められます。
柔らかくしなやかで、プレーヤーの複雑な手の動きの邪魔をせず、違和感なくフィットする。
野球グローブにはそんな柔軟性が求められていると言えるでしょう。
では、これら3つの機能を満たすために、野球グローブの革にはどのような種類のものが使われているのでしょうか?
次に野球グローブに使われる革の種類や特徴について見ていきましょう。
野球グローブに使われる革の種類や特徴とは?
一般的に本革には牛や、豚、馬など様々な動物の皮が原皮として用いられますが、野球グローブに使われているものの99%は牛革(カウレザー)です。
牛革が使われている理由としては、まず、他の動物に比べ皮膚線維組織が比較的均一で丈夫なこと。
次に、生育年数や雌雄などによって、柔らかさ、厚みに違いがあるため、様々な性質の革を作れることの2点が挙げられます。
主に野球グローブに使われる2種類の牛原皮
牛革の素材となる原皮のうち、主に野球グローブに使われるものはキップとステアハイドがほとんどです。それぞれの原皮には次のような特徴があります。
キップ
生後6ヶ月~2年程度の中牛から採れる皮のこと。皮の繊維密度が高く、薄いですが丈夫です。成牛皮に比べると銀面(表面)はなめらかで柔らかいです。
ステアハイド
生後2年程度で、3~6ヶ月の間に去勢されたオスの成牛から採れる皮のこと。キップには劣りますが、銀面(表面)はきめ細やかです。厚みが均等で丈夫なことも特徴です。
キップ、ステアハイドに共通する、「適度な厚みがあり丈夫」、「銀面(表面)がなめらかで手触りが良い」という性質。
これらは、野球グローブに求められる弾力性・耐久性・柔軟性の機能にピッタリ当てはまるものです。
さらにつけ加えると、キップは原皮の中でも高級な素材にあたり、見た目や、タッチ感が良くて、軽いことからプロ選手用の野球グローブとして使われることが多いです。
そのため、一般に手に入る野球グローブの大半はステアハイドになると言えそうです。
では、次に野球グローブの革の特徴について見ていきましょう。
野球グローブのほとんどは『半芯通し』
野球グローブの革の大きな特徴としては、”半芯通し”という染め方を採用している点が挙げられます。
次の写真をご覧ください。
赤丸で囲ってある部分ですが、中央が白くなっていることが確認できます。
これは染色仕上げの一つ、「半芯通し」という染色方法をとっているためです。
野球のグローブは、捕球時にボールの勢いをしっかり止める(摩擦係数の減少を防ぐ)ため、銀面(表面)に塗料や塗膜を行わないことが一般的です。
そのため、革の表面に直接塗料を塗る顔料仕上げではなく、染料を使って革を繊維から染めあげる染料仕上げという染色方法が実施されています。
ただし、革の芯(中心)まで染料を入れてしまうと、芯の繊維がほぐれ、野球グローブに求められる弾力性や耐久性を損なってしまいます。
そこで「半芯通し」という方法がとられるようになったのです。
もちろん、硬式グローブほどの弾力性や耐久性を求められない軟式グローブでは、中心部まで染め上げた「芯通し」を採用しているグローブにも多く見られます。
とはいえ、多くの野球グローブでは半芯通しが採用されていることからも、
半芯通し=野球グローブの革
と言っても差し支えないでしょう。
そして、この半芯通しで染色した革の良さを最大限に引き出すのが”素上げ”と呼ばれる仕上げなのです。
素上げ革が野球グローブの魅力を生む
素上げ革とは、染色した後の革に、着色剤や仕上げ剤などの薬品をほとんど使用しないことで、革独特の表情を残した革のことを指します。
本来、天然素材である本革には、動物が生きた証であるキズやシワが残るもの。
そのため、着色剤や仕上げ剤を使用して表面のキズやシワを隠したり、革の色落ちを防いだりすることが一般的です。
そうすることによって革が強く長持ちするように感じるかもしれませんが、塗料や塗膜などで革の表面を覆ってしまうと、革本来が持つ自然な風合いは損なわれてしまいます。
これは、野球グローブに求められる弾力性や柔軟性を減少させる原因にもなるのです。
もちろん、素上げの革にも弱点はあります。
表面に分厚いコーティングを施さないため、色落ちや、シミになりやすいのです。
ただし、その弱点も、野球グローブにおいては、グローブ用のオイルが馴染みやすいという利点に早変わりします。
野球グローブの、使い込むほどに深まる色味や艶、手に馴染んでいく感覚。
そして、自分だけのグローブに育てていく醍醐味は、実は素上げの革によって生み出されているものなのです。
まとめ
ここまで見てきた通り、野球グローブ用の革は半芯通しなど他の製品にはない仕様が求められます。
そのため、グローブ用の革はどのタンナーでも生産しているというわけではありません。
特に大手の野球グローブメーカーの厳しい目にかなうグローブ用の革を提供しているのは、
国内でもごくわずか(大体5~6社ほど)と言われています。
ありがたいことに、現在のところ、私たちごとう製革所はその数少ない1社に数えていただいています。
といっても、何か特別なことを行っているわけではなく、
強く、しなやかで、プレーヤーの手に馴染む。
そんな野球グローブを実現する革づくりに、真っ直ぐに取り組み続けてきた結果と受け止めています。
私たちはこれからも現状に甘んじることなく、お客様のため、そして、日本のモノづくりのために挑戦を続けていきます。
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